介護

尿失禁で困った・・・ 介護を楽にする環境設定とおすすめ介護用品

高齢になると厄介になるのがトイレの失敗。一度トイレが失敗すると、そののイメージが強くなり、このような心理的ストレスは自信を喪失させ悪循環に繋がります。また、介護する家族にとっても、失敗が続けば後処理などの身体的負担から心理的負担も増加し、介護疲れを助長します。本人様や家族様が安心して生活を共にするためにも、尿失禁の原因を知り、その原因にあった対処方法を実施することが必要です。

尿失禁のタイプ

尿失禁のタイプは以下の4つ。実際には腹圧性と切迫性の混合型もみられます。

・腹圧性尿失禁

運動や咳、笑いなどで腹圧がかかる場面で尿が漏れてしまう状態を指します。原因は、骨盤底筋の弱化です。骨盤底筋が正常に機能しないと、膀胱を支える力が失われ、尿が漏れることがあるのです。

女性の場合、妊娠・出産や加齢をきっかけとした骨盤底筋群の損傷や脆弱化により機能低下をきたすことが要因となり、高齢女性の尿失禁有病率は 30~50%とのデータがあります1)

・切迫性尿失禁

突然、我慢できない強い尿意が起こり、間に合わずにトイレへ行く前に漏らしてしまうような状態です。「神経因性」と「非神経因性」に分類されます。脳や脊髄神経の病気により排尿に関する指令が脳でうまく作用しない神経因性タイプ。前立腺肥大症や膀胱がんなどの病気が原因で起きる非神経因性タイプがあります。

・溢流性尿失禁

慢性的な尿路の閉塞や、排尿筋が弱くなったことにより、尿が正常に出せなくなって膀胱内に尿が貯留した状態です。限界を超えて貯められなくなった尿が漏れてしまうことになります。尿意の切迫感を伴うこともあれば、尿意がなく自然と漏れてしまうこともあり、症状の出方は多様です。その背景には、前立腺肥大症による尿路の圧迫、糖尿病に起因した末梢神経障害による膀胱の収縮調節障害など、病気が原因となっている場合もあるので注意が必要です。

・機能性尿失禁

尿道や膀胱といった臓器に問題はありません。寝室からトイレまでの距離が遠いなどの物理的な要因や、トイレまで歩くための身体機能や認知機能の低下が原因でおきる失禁を言います。上記の3つのタイプと異なり、服薬や手術などの対処ではなく、介護の仕方や住環境の整備、福祉用具の活用によりトイレを失敗させない対策が可能です。


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介護保険サービスの利用

介護保険を利用したサービスには、福祉用具のレンタル・購入サービスや、住宅改修工事の補助などが挙げられます。いずれも被保険者である本人様の所得に応じて、利用額の1~3割の利用負担となるため、お得に制度を活用してトイレを失敗しない環境づくりを目指します。特に上記で挙げた4つのタイプのうち、機能性尿失禁に対しては、本人様にあった環境づくりが有効です。

・レンタル品の利用例

寝室からトイレまでの移動が遠いと、たどり着くまでに一苦労です。高齢になると下肢の筋力も低下し、移動もふらつきが多くなり転倒の危険性も増えます。レンタル品では、移動をサポートする多点杖や歩行器、室内に設置できる手すりなどをレンタルすることが可能です。手すりには蓄光可能なテープがついたタイプもあるので、夜間の暗い廊下を歩くのをサポートします。また、布団から起きるのが大変で寝室から出るまでに時間を要している方は、介護ベッドをレンタルすることでスムーズな起き上がりを獲得することもできます。

・購入品の利用例

歩くことが困難な方は、寝室にポータブルトイレの設置を検討します。おひとりで利用できる条件としては、立ち上がりが安定して行えること、ズボン・パンツの上げ下げの可否が挙げられます。ポータブルトイレは様々な種類が販売されていますが、利用する方の身体状況や求める機能、またデザイン性によって値段の幅が大きく異なります。また、注意が必要なのはその形状です。旧式タイプや安価なものですと、ポータブルトイレに座った際に両足を後方に引くスペースがありません。腹圧を高めることが難しく立ち上がりもしにくいため、身体機能が高い方以外には利用をおすすめできません。また、ひじ掛けがついていないタイプも立ち上がりがしにくいため、高齢者の方が利用する場面を想定すると、ひじ掛けタイプのポータブルトイレを使用することが、より安全な排泄動作に繋がります。お急ぎの場合は、お近くのホームセンター等でも販売しているため、プラスチック製の安価なものなら7,000円ほどで購入が可能です(2024年8月時点)。しかし、あくまで利用される本人様の身体状況にあったものを使用できるよう、できればケアマネージャーさんや福祉用具業者への相談をお勧めいたします。そのうえで、介護保険の購入補助申請をして費用を安く抑えましょう。

・住宅改修工事の利用例

介護保険では、要支援・要介護状態にかかわらず、総額20万円分までは工事の支払い金額に対して補助がもらえます。利用する本人の所得に応じて、その自己負担割合は1~3割です。そのため、負担割合が1割の方が20万円の工事を行った場合、実際の支払い金額は2万円で済みます。例外を除き、一生涯で20万円の枠が決まっているため、目的に応じて今後の身体状況の変化も考えながら、本当に必要なタイミングでの工事をおすすめします。また、工事に対して補助がおりるのは、以下の種類に該当するものになります。

①手すりの取付け
②段差の解消
③滑りの防止及び移動の円滑化等のための床又は通路面の材料の変更
④引き戸等への扉の取替え
⑤洋式便器等への便器の取替え
⑥その他前各号の住宅改修に付帯して必要となる住宅改修

上記の項目は、トイレの改修工事においてはおおむね該当することが多いです。

住宅改修サービスの利用の流れやサービス内容、工事に伴うメリットやデメリットについては、別記事に掲載しておりますので、こちらもご覧ください。

①手すりの取り付け

下肢筋力が低下して移動が不安定な方に対しては、トイレまでの移動で通過する廊下やドアの出入り口付近に手すりを設置して転倒を防ぎます。トイレ内では起立着座動作や立位保持をサポートする縦手すりを設置し、座位保持をサポートする横手すりを設置して安楽な座位姿勢を作ります。

②段差の解消

日本の住宅ではトイレのドア下に敷居が多く、この段差を越えるためにはまたぎ動作が必要です。跨ぎ動作は一時的に片脚立位姿勢となるため、バランスがとりにくくより転倒の危険性が増します。段差解消工事では、敷居を撤去して廊下とトイレ床をプレートで繋ぐことで段差を解消します。実際には廊下とトイレ床は高さが違うことも多いため、その際にはへの字プレートやZ字プレートという材料を用いて、平面またはなだらかな斜面にして段差を解消します。

トイレの床面が洗面所や廊下より大きく下がっている場合は、トイレ床下地を作り替える必要があります。実際に床面をかさ上げする工事ではトイレの便器自体も新しいものに変えるの

③滑りの防止及び移動の円滑化等のための床又は通路面の材料の変更

トイレの改修工事では、床面の材質も変更することをお勧めします。既存の床が板張りやタイルなどだった場合には、床の下地を入れ替えたあと仕上げにクッションフロアに張り替えると見た目も大きく変わります。クッションフロアは種類によってはキッチンや洗面所などの水回りで撥水効果が高いものもあり、またクッション性があるので温かみがあります。インテリア面ではトイレ壁面の壁紙とカラーを変えてメリハリのある空間を演出するのもよいでしょう。

④引き戸等への扉の取替え

こちらの工事もトイレの改修工事で行われることが多くあります。トイレのドアが開き戸の場合、扉を自分の側に開こうとすると身体を避ける必要があります。この時、下肢が自然と後方に下がる(ステップ動作)ことができればバランスを保てますが、骨折や麻痺などで足の運びが悪くなると、その一歩がうまく出ず転倒することがあります。引き戸は自身の身体を動かさずにドアの開閉が行えるため、バランスの悪い方でも安全にトイレの出入りができるようになります。既存の開き戸から交換したい場合はアウトセット引き戸(引き戸枠を設けず、壁の外面に上吊りのレールを設置した引き戸)がおすすめです。レールが足元にないため、歩く際や車いすでの移動も段差がなくスムーズな出入りが可能です。デメリットは上吊りの分隙間風が入りやすく気密性に劣る点などが挙げられますが、開き戸よりも開口を広くすることもできるので、介助が行いやすくなる点もメリットです。

⑤洋式便器等への便器の取替え

現在は数が減りましたが、まだまだご自宅を訪問するとお見受けるすることのある和式便器。介護保険では洋式便器への交換にも補助がおりるので、交換を検討している場合は是非を活用しましょう。また、すでに既存の便器が洋式でも、便座からの立ち上がりが大変な方には、補高便座の購入を検討します。こちらは住宅改修ではありませんが、介護保険の適応で販売価格の1~3割の負担で購入することが可能です。ウォシュレット付補高便座など便利な機能のついたものが多数あるので、必要に応じて機能を選びましょう。

⑥その他前各号の住宅改修に付帯して必要となる住宅改修

①~⑤の工事を施工していくうえで必要になる工事に介護保険の補助が適用されます。たとえば、手すりの取り付けにあたっては壁のなかにある下地(間柱など)に手すりがとりつくよう施工しなければなりません。しかし、取り付けたい位置に柱がない場合には、一度壁を壊して強度のある合板(Mクロスなど)を取り付けてから壁を作り、改めて手すりを設置することが可能です。この場合は壁の補強自体にも補助がおります。


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参考文献

1)Hunskaar S, Amold EP, et al.: Epidemiology andnatural history of urinary incontinence. Int Urogynecol J.2000; 11: 301–319.

めめんと

大学卒業後、理学療法士として回復期病院(整形・脳卒中)と老健施設(入所・認知症ユニット)で5年間の臨床活動を実施。その人の「できること」を活かした環境支援を学ぶため、現在は企業で福祉用具や住宅改修サービスの提案を行っています。

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