大学や専門学校を卒業し、病院や施設などで数年間の臨床経験を経ると、自身のスキルアップや将来を見据えた転職を考える方が出てくると思います。私自身も臨床家から企業の営業・事務職に転職して今までになかった視点を増やすことができましたが、転職したからこそ失敗したとわかったことがあります。これから転職を考えている医療介護職の皆様がよりよい人生を歩めるよう、異業種への転職についてお伝えします。
臨床家の異業種転職
療法士の資格を取得して最初に働く場所は、病院や施設が大半です。学生時代は実習をしながら就職先を探し、就職先の情報を調べて面接を行ったかと思います。この時点で、実は一般企業に就職を考えている学生とは立場が異なることを、異業種転職した今なら切実に感じます。一般企業に就職する場合は、自身の好きなことや得意なこと、価値観を分析し、自己評価を徹底したうえで企業の求める人材と自身がマッチングしたうえで面接を行います。セラピストの就職活動も、もちろん自己分析をしたうえで臨みます。しかし実際のところは「国家資格」という免許があるため、この自己分析が曖昧でも就職できてしまうように感じます。
臨床家は患者様の身体機能を評価するのが仕事ですが、学生時代に自己分析する機会は意外と少ないと思います。自分は何が好きでどんなことが得意なのか、意外とわからないものです。私と違って自己分析が学生のころから行えている方は問題ありませんが、特に臨床家という職種はその成り方が決まっているため、自身のことを見つめなおす機会が少ないことを感じて頂ければと思います。
そのような状態で就職した結果、臨床活動を実施しながら転職先を考えるうえでは、改めて自己分析が必須となります。
転職の理由は人それぞれです。ライフステージの変化や日々の臨床で感じる疑問を持つなかで、何を大切にしたいかでその方向性は大きく変わります。家族が増えれば収入や休日が多く、休みが取りやすい環境は大切です。専門性の向上のためには特化した施設やクリニックへの転職を考えます。しかし、自身の強みがマッチしないまま待遇だけが望ましい環境へ行くと、その先では今よりつらい現実が待っています。
特に、異業種へ転職される臨床家は要注意です。今までの臨床活動で、患者様の身体機能を評価し治療することで結果を出すこと自体が好き!楽しい!と強く感じる方は要注意です。今のやり方に疑問があって転職を考えている場合、この「好き!」「楽しい!」が感じられない職種を選ぶと大変後悔します。自身がペンギンなのに空を飛ぼうと羽を動かしても、一生羽ばたくことはできません。苦手なことを克服しようとして一生懸命に取り組んでも何も残りません。かならず自己分析を行ってから転職することを強くおすすめします。
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強みの再評価 強みの種類を理解する(後天的強みと先天的強み)
医療介護職の異業種転職において、転職先から見て「強み」としてイメージしやすいものはなんでしょうか?
個人的には、「医療介護の専門性」が挙げられるかと思います。それは医療介護の専門的な知識だけでなく、ケアのスキルから対人関係まで様々です。元々患者様や利用者様と接する機会が多い医療介護職は対人サービスが主になるため、営業職に転職する際には経験が活きることもあるでしょう。このジャンルの強みは、専門学校や現場で学んだもの=後天的に習得した強み(後天的強み)といえるでしょう。これは自身でも他人からみてもイメージしやすいため、自身のプロフィールにおいてまず目につきやすいものと言えます。
では、元々その人がもっている「強み」とはなんでしょうか?
これは、その人にとっての「得意な事」です。得意な事といっても、なかなか自分では答えられない方も多いと思います。
なぜなら、得意な事とは、普段から自分が当たり前にできているせいで、自分では得意と気づけないからです。この強みは大人になる過程で自然と習得されるものなので、上述の後天的強みと対比して先天的強みと表現できます。
たとえば私の場合は、ついつい原因を考えてしまう「クセ」があります。臨床家として普段から患者さんの動作がうまく行えないのはなぜか?と考えていたこともありますが、学生のころから一度何か疑問があると、問題が解けるまでそれに固執してしまうことがありました。そのためには何が必要なのか?どうしたら証明できるか?考えるとキリがありません。それでも考えている間はなぜか楽しく、むしろ答えがすぐにわからなくても、「わからないのが楽しい!」「この仮説を証明したい!」という思いが強く、疲れが来ない!という状態になることも多々あります。そのおかげで大学時代のレポートは仮説考察関係では良い結果を得ることができました。
ここで私は考える「クセ」を「得意な事」と述べましたが、実はこれ、自分の短所も表しています。
一度考えると問題が解けるまで考えてしまうクセは、言い換えると「一つの物事に集中して考えることができる」という強み(長所)です。
しかし、この強みが短所となる場合があります。それは、その人がいる環境です。
「一つの物事に集中することができる」ことは、さらに言い換えると「複数の物事に注意して作業できない」とも表現できます。
つまり、いくつかの課題や問題を同時にこなしたり、新たな案件が生まれた場合には、そちらに注意を持っていかれてしまい、元々行っていたことに集中できなくなってしまうのです。
仕事においてはどちらの強みを優先するかで、仕事の作業効率や仕事に対するモチベーションだけでなく、人生の幸福感にまで影響すると考えます。
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医療介護職の異業種転職で優先するべき「先天的強み」
ここからは私の失敗談も交えて、異業種転職にあたり後悔しないための転職の思考法をお伝えしていきます。
医療介護職としての後天的強みのなかには、国家資格としてのいわゆる「肩書」も含まれますが、本当に活かすべきはその職種を通して蓄積されたスキルです。このスキルを転職先で活かせれば、仕事の精度も向上しやお客様の信頼も得られやすいのは事実です。私の場合も理学療法士としての経験を活かして福祉用具や住宅改修の提案を行うことができるので、確かに仕事を円滑に進めることができています。
しかし、同時に私は自身の先天的強みを深く考えず、後天的強みだけを優先して転職をしたことで、後天的強みを活かしきれない状態になってしまいました。
私の場合、「一つの物事に集中して考えること」が得意な人間であるゆえに、複数のことを同時並行で考えたり、複数発生した案件の優先順位を決めて行動することがうまくできません。仮に出来たとして、周りの人よりも作業が遅くスケジュールに穴があったりと、今までの仕事ではあまりなかったミスが多くみられるようになったのです。
この状態が続くと、自己肯定感が大いに低下していくことがわかります。また仕事でのミスだけでなくプライベートでも判断力が低下していくリスクもあります。現在は自己評価を適切に行い、自分にできる事と苦手なことの線引きが出来ているので大丈夫ですが、転職してミスが続いていた当初は自己否定の連鎖と顧客からの指摘等で精神的なストレスが伸し掛かりました。プライベートでも、冷静に考えれば詐欺だとわかるサービスに引っかかる等の悪影響が出るほどです。
この時に改めて感じたのは、仕事とは自身の強み(ここでは先天的強み・得意なこと)を活かせて初めて成り立つものということです。
私の場合は、患者さんの在宅復帰や自立支援を追求するために必要な知識を得るために、臨床家から福祉用具・住宅改修の営業スタッフへと転職を果たしました。目的のために必要な経験だと判断して転職したわけですが、その判断のなかにもう少し自分の得意を活かす考えがあれば、つらい思いをしなくても済んだでしょう。
今から異業種へ転職を考えている医療介護職の皆様には、是非自身の先天的強みを活かした就職先が見つかることを心より願っています。