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住宅改修と福祉用具選定 療法士としての提案

病院や老健等で働くPT(理学療法士)OT(作業療法士)ST(言語聴覚士)にとってゴールの一つである在宅復帰。

多職種と連携し、患者様や利用者様本人の自立度を高めながら、ともに退院・退所を目指していきます。

その中で直面するのは、身体機能面の問題から家族様の介助力や各保険サービスの利用制限など、本人を取り巻く様々な問題です。

セラピストは、身体機能の改善を図ることが業務の中心になりますが、ほかにもできることがあります。

それが、本人の身体機能に寄り添った住宅改修と福祉用具の提案です。

この提案で本人の生活の質を維持・向上できるかは、担当となったセラピストやその仲間達にかかっているのです。

ある意味、ICF(国際生活機能分類)でいうところの、「セラピストが最大の環境因子」となるのです。

そのため、本人に適した環境設定を評価して提案できることは、セラピストにとって大きな強みとなるのです。

セラピストの役割

退院退所に向けて、時期が来れば家屋調査や動作評価をすることになるPT・OT。

セラピストはあくまで動作のプロです。治療行為を除き、動作の構成要素や介助が必要な動作など、動きのポイントを抑えることに特化しています。それを患者様本人や介助する家族に伝えて指導することが得意です。

では、実際に患者さんから、どんな改修工事をすればよいか?どんな用具を使えばよいか?と聞かれたとき、すぐに答えられるでしょうか?

私は臨床家時代に自信をもって答えることができませんでした。なぜでしょうか?

それは、どんな改修ができるのか?どんな用具があるのかを知らないからです。

臨床4年目の頃は、在宅復帰前の歩行器選定で、ケアマネージャーさんから教えてもらった歩行器のおかげで、安全な室内移動を提案することができました。このとき教えてもらっていなかったら、おそらく施設に常設しているような目的に合わない用具を選定していたでしょう。

つまり、セラピストは治療や動作のポイントは知っていても、その動作に最適な環境(改修工事・用具)を知らない可能性が大いにあるのです。

もちろん、先輩からの指導や経験年数を積むことで様々な症例を通してある程度の知識は得られます。

しかし、治療に多くの手技があるように、改修工事や用具もまた、複数の選択肢が存在します。

そのなかから最適解を得るためには、セラピストは環境のプロである福祉用具専門相談員や改修業者との協力が必須です。

セラピストは、彼らに動作の問題点を伝え、それを補う方法をともに検討することで、最適な環境を整えていきましょう。

福祉用具専門相談員の役割

福祉用具専門相談員は、環境のプロです。

様々な改修工事方法や福祉用具の中から、利用者様本人の身体機能に適した環境を選定、提案します。

例えば階段の手すり工事一つでも、設置方法が異なります。福祉用具も、目的に応じて多くの種類の中から選ぶことができます。

専門相談員は様々な環境を提案することはできますが、本人の動作のポイントに絞った選定は難しい場合が多いです。

セラピストと違い、本人と関わる時間も少なく、また身体の運動・解剖的性質までは知らないからです。

福祉用具専門相談員は、セラピストや関係職種と情報を共有し、可能な限り本人の身体機能に適した環境を提案します。

改修工事の前に考えること

改修工事は、手すりの取り付けや床の張替えなど、一度施工するともとに戻すのは容易ではありません。介護保険の限度額もあるため、本当に工事を施工してよいのか改めて考える必要があります。

手すりを例にとれば、動作評価等で事前に福祉用具貸与業者と調整し、レンタルの手すりを設置して使用状況をイメージしてもよいでしょう。

脳梗塞等で足部クリアランスが保てない場合などは、置き型の手すりだと鉄板部分につまずいて、転倒の危険性が増加する可能性があります。

その場合は、手すりを壁に取り付けられるか業者と相談し、問題なければ改修工事を提案します。

反対に、手すりを取り付けるための下地(壁のなかにある柱等で、ネジを止めることができる部分)がないなど、改修工事では本人の動作を補助できない場合には、レンタル品が有効になります。

また、改修工事は本人の予後予測も重要になります。今は歩行が出来ていても、数年後には車いすでの移動も想定されます。その場合は、手すりを取り付けた後も廊下を車椅子で移動することができるのか?介助者の有無によっても必要な有効幅は変わるため、本人様・家族様との相談が大切です。

住環境を学べる資格 福祉住環境コーディネーター

以上のことから、セラピストは動作のプロではあるもの、その身体機能に適した改修工事や用具の提案となると、知らないことが多いのが実際です。ですが、それ自体は悪いことではありません。それだけ患者様や利用者様のADL改善に向けて治療技術の勉強をしてきた結果だからです。

だからこそ、より良い状態で在宅生活へと送り出すためには、工事のことや福祉用具の事についても知っておくと、それは大きな強みになります。

住環境について学ぶうえで、建築や用具、制度について幅広く学ぶことを考えると、民間資格である福祉住環境コーディネーターの取得を目指すのもよいと思われます。

こちらの資格は1~3級までに分かれており、1級が上位資格となります。なかでも2級以上は介護保険の住宅改修費支給申請に必要な「理由書」の作成権利が得られます。PT・OTの資格を持っている方はその時点で理由書を作成することができますが、普段の臨床では得られない建築や制度的なことも学べるためおすすめです。筆者はPT4年目で受験しましたが、すでに大学で受講し臨床現場で働いている場合は抑えるべきポイントは限られてくるので、資格取得しやすい印象です。また、手すりの高さやスロープの勾配、介助に必要なスペースなど、建築と介護の両面について学ぶことができるので、より幅広い提案をすることができるようになるでしょう。

2024年現在は、IBT方式によりご自身のパソコンを使い自宅や会社などで受験することができるようです。今までどおりテスト会場での受験もできるようなので、腕試しに受験してみるのはいかがでしょうか?


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めめんと

大学卒業後、理学療法士として回復期病院(整形・脳卒中)と老健施設(入所・認知症ユニット)で5年間の臨床活動を実施。その人の「できること」を活かした環境支援を学ぶため、現在は企業で福祉用具や住宅改修サービスの提案を行っています。

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